青木　悦の本

【Ⅰ】「若者たちのブラックホール」

「あの少年たちは遊んだだけよ」
　中学三年生の彼女は、いくらか顔を上げ気味に、強い声で言った。三十人ほどの教師と親は一瞬黙りこんだ。みんないっせいに彼女の方を見た。細長いテーブルに両手をゆっくりと置いて、スラリとした長身をまっすぐ立てた彼女は、今度はゆっくりと言った。
「少年たちは、人を殺したわけじゃないと思います。ちょっと遊んだだけだと思うんです」
　じっと私の顔を見て、そのまま立っている彼女を、私もじっと見つめた。この言葉をどうとらえていいのか、正直なところわからなかった。うろたえていたといっていい。
　さらに私をうろたえさせたのは、そのまわりの二十人ほどの中学生たちのほとんどが、彼女の言葉にうなずいたことだ。そして全員が彼女と同じような目を私に向けている。

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