いま二十代の終わりから三十代ぐらいの、いわゆる〝若い〟人たちと話をしていて、奇妙に感じたことがあった。それは自分の意見を表現する前に、その場にいる人たちの気持ちというか、意志というか、考えを、とてもていねいに探るということだ。
私のように五十代ぐらいの人たちは、もちろん個人差はあるが、まわりを考えるより先に、時にはまわりを無視してわれがちに自分の意見を言うことが多い。子どものころからたくさんの人数の中(ベビーブーム)で、とにかくワーワー言わなければ、親にも学校の先生にもこっちを向いてもらえなかったからとも言える。しかしそれよりも、戦後すぐに受けた教育が影響していると、私は思う。
小学生のころ、何かといえば学級会が開かれた。一日の反省会もあったが、何よりも、クラスでもめごとがあると徹底的に討論した。当時人気のあったお菓子のおまけについているカードを、男子の誰かがみんなから強引に集める〝事件〟があって、そのときは、授業をつぶして論議した。現代だったらきっと「勉強が遅れる」と抗議する親もいたにちがいない。何しろ一日中討論だったから。
こんな中で私などは、とにかく自分の意見はとりあえず言う、反対の人は反対と言うだろうと信じている。しかし、先述の〝若い〟人たちはあまり「反対
! 」と言わない。それなら「賛成」なのかと思ったら、眼で「反対 ! 」の意志を示したりする。なかなか判断が難しいと、私などは思う。
自分の意見をポンと言う前に、まずまわりが自分に何を求めているかを探り、それに合わせて自分の意見を言っていく人が多くなっていると思う。このやり方は、前の世代のわれがちの姿勢よりは「おとな」のように見えるけれど、とても恐い面もはらんでいるのではないだろうか。
まず、まわりに合わせているうちに、本当の自分の意志がわからなくなってしまう。さらに、こっちの方がもっと恐いと私は思うのだが、いつもまわりにあわせて表現した以上、その結果に自分は責任がないと思う人が多いように見えることだ。「いじめ」事件を追っていて、現実にひどい目にあっている子どもがいるのに、誰もが「自分はやっていない」と言い張る場面に出会ったことがある。一度や二度ではない。現にしたことを認めないなんてどういう心理なのか理解に苦しんだ。最近になってやっと、「まわりの要求でしたこと」に責任は負えないという心理なのだとわかることがあった。
これは戦争中の個人の行為を、まわりから要求されて、「仕方なく……」と言い続けた一部の戦後のおとなの姿と重なる。現実に被害者がいるのに、誰も責任を取る人がいなくて、そろって「だまされていた」あるいは「仕方なかった」と言った。私が戦後受けた学校教育の一つの方法は、こうした「個人」が育っていなかったことへの深い反省として行われたと思う。そのころ学校で「いじめ」はなかった。
真の「個人」が育つ前に、日本の教育は経済優先の中に巻き込まれて、曲げられ続けた。そしていま、何もかもメチャクチャの論理で、「戦後の教育が悪かった」として、教育基本法が変えられようとしている。再び誰も責任を負わない時代が来るのかもしれない。私は、断固、:反対する。私個人の意志として、教育基本法と平和憲法は守りたい。帰るべき指針を失ったら、どうしていいかわからない。
再び無責任な時代を招きたくない
-教育基本法改「正」に反対-