公園で小学校低学年の女の子たちが遊んでいる。「家族ごっこ」だという。ああ、昔の「ままごと」かと単純に考えたら、大まちがい。
「ままごと」の語源は、私は漠然と「飯(まんま)事」だろうと思っているが、若い母親に「あら、ままごっこの略じゃないんですか
? 」と言われ、あれっと思ったことはある。お母さんのことをママという言い方は、「ままごと」ということばの歴史よりはずっと新しいから、「ママごっこ」が「ままごと」になったとは思えないが。
ままごとの語源が本稿の目的ではない。今の小学生たちの「家族ごっこ」という言い方から、私は「ままごと」を連想した。だから食事を作ったり、食べたり、子どもをお守りしたり……いわゆる家庭の中のこと、主として飯(まんま)にまつわることが演じられるものと思っていた。
しかし「家族ごっこ」は「ままごと」ではなかった。まず、お父さんの役、お母さんの役がパッパッと決まった。はじめから決まっていたかのように、リーダー的な子どもが、この役をとった。そして子どもの役は二人。お兄ちゃんと妹だという。
あと四人ほどの子どもが残った。どうするのかなと思った。全部「子ども」の役にしちゃえばいいのにと思ったが、子どもたちの頭の中に「子ども」の数が六人なんてのはイメージされないらしく、二人以上にはどうしても増えない。
「お母さん」役の子が言った。○○はイヌ、△△はネコ、えーっと、…◇◇はハムスター、あと、☆☆はインコ――」。何と、残りの子たちはペットの役をふりあてられた。
つづいて「お父さん」がランドセルの中からパンをひときれ出して、地面に投げた。すると「イヌ」になった子が、地面にはいつくばって、手を使わずに口でそのままパンをひろい、まるで本物の犬のようにベチャベチャと食べた。みんな笑っている。楽しそうに。「イヌ」も笑う。
「ネコ」の子が地面にしゃがんでニャーゴ、ニャーゴと、手を顔の前でくねらせて鳴きはじめた。ネコのまね、上手だ。また、みんなで笑う。「お母さん」がやはりパンの切れはしをつまんで、「ネコ」の前にぶら下げた。「ネコ」は必死で、しゃがんだ姿勢のまま何度も飛び上がり、そのパンを口で取ろうとする。「お母さん」は「ネコ」をさんざんにじらす。「ネコ」は時にイラつく様子で「お母さん」を追いかけ、やっとパンを食べ、口のまわりを両手でクネクネとふく。そしてまた大きな笑い声…。
確かにこれは「ままごと」ではない。「ママごっこ」でもない。「イヌ」の子が再び、地面に投げられた「エサ」をそのまま口で食べようとしたとき、私は思わず「きたないわよ。やめなさい」と言ってしまった。地面に落ちた食べ物をそのまま食べることがきたないというだけでなく、この「家族ごっこ」という遊びに、私は妙な不快感を抱いていて、こんなことばになったと思う。
子どもたちは笑いをやめ、急にシラジラとした表情になって、公園から出ていった。これは遊びなのだろう、楽しそうだった、私はおせっかいだった等々いろいろ考えたが、イヌ役、ネコ役がいつも同じ子に与えられるなら、これは「いじめ」だ。そして何よりも、イヌもネコもハムスターも、ペットというわりにはかわいがられていない。変だ…。
子どもたちのやっていることにすぐ介入はしたくないが、わからなかったらやっぱり正直に表現していこう、少々うるさがられても仕方ない、そうも思った。
どこか変だよ? 子どもたちの「家族」ごっこ