その人にもらう元気と勇気
A子さんは大病を患い、二度も大きな手術を受けた。手術の前後に食べ物、飲み物を一切とってはならない時期があった。そのとき同じ病室にいる他人の体臭、食べ物の臭い、見舞客の香水、汗の臭いなどに、とても敏感になったという。
A子さんの息子さんは中学生で不登校だった。まわりの臭いにひどく敏感で、くさい、くさいと、自分の手を洗ったり、風呂に何度も入ったりしていた。
息子さんの状態を「病的だ」などと思っていたA子さんだったが、自分の手術のときの感覚を息子さんに語った。
「人間は、自分の体調がおかしいとき、臭いとか音とか、ひどく敏感になることもあるんだよね。それがよくわかった。だから、あなたも学校に行かれないということは、とにかく体調もおかしかったんだよね。それを、根性がないとか、ガンバレとか…ごめんね」
息子さんは何も言わなかったらしいが、しばらくして、A子さんが仕事の帰りにスーパーマーケットで山のように食料品を買い、表に出てくると、息子さんが立っていて、黙って重い荷物を持ってくれたという。
B先生は、中学校の教員。「いじめ」をする子どもたちの気持ちをつかむことがどうしてもできなかった。いろいろな本を読み、講演を聴き、勉強したけれど、具体的にどうすればいいか、全くわからなかったという。
そんなとき、ある一冊の本に出会い、具体的に「いじめ」をする側の子どもの気持ちを少し理解したように思った。その本には、「いじめ」に参加する子どもたちの多くは、「いじめ」をいやなことだと思いつつも、「あいつがいじめられている間は自分が標的になることはない。だから必死でいじめに参加していった」と書いてあった。
B先生は、「いじめ」をしている生徒と二人だけで話すチャンスを得た。思い切って聞いてみたという。
「あの子がやられている間は、自分がいじめられないから、だから、やっているのか
? 」すると、その子はうつむいて、ゆっくりとうなずいたという。そして、少しずつ「いじめ」はおさまっていったともいう。
――こういう話を直接聴いたり、手紙で伝えてもらったりする。私に言ってくれる人はそう思っていないかもしれないが、私はこういう話に胸うたれ、心があらわれた気持ちになり、元気が出る。
それは、A子さんもB先生も、自分のすぐ側で苦しんでいる子どものことを、かたときも忘れていないというというところにある。苦しむ子どもに、うまく対応できないと思いながらも、何かできないかと心を寄せている点にある。子どもの状態を、わからない、不思議だ、病的だ、などと思いながら、そこで結論を出すのでなく、さらに考えつづけている。だから、自分が病気になったり、何か気づいたりしたとき、ハッとする思いで、子どもの苦しみに近づくことができるのである。
不安があおられ、元気がへし折られる思いのする昨今である。そんなとき、私は、こういう人たちのことを思い出す。遠くで理想を語ることも忘れてはならないが、近くの苦しみに寄りそうことも同時にしていかないと、足元をすくわれると思うから。こういう声を届けてくれる人たちに、心から出てくることばがある。――「ありがとうございます」。
子どもの苦しみに寄りそう人