2章　「ほんとうの友だちが欲しい」

「いじめて、いじめられて」

彼女は私に、「私なんかこの世にいない方がいいのです」と手紙を書いてきていました。
「そんなことはない。あなたの命は親や兄弟やたくさんの人とつながっている。手紙をもらった私ともささやかながらつながっている」と、苦しまぎれの返事を書きました。そして出会ったのです。

「あの……私は小学校高学年から��いじめ�≠轤黷ﾜした。死のうと思ったこと、何度もあります。風呂場でカミソリを手首にあてたこともありました。でも、でも、私は「いじめ」をやったのです。いやだと思っても、やらないと私がやられる。やられると死ぬほどつらい。

　どうして、いじめっ子、いじめられっ子って分けるんですか?　どうやって、いじめっ子、いじめられっ子を見分けるんですか?　それと、どうしておとなは、いい子、悪い子と区別するのですか?
　私が「いじめ」られて悲しかったとき、私の話を一番わかってくれて、なぐさめてくれたのは、ツッパリといわれている子だった。その子だけが支えだったのに…… 、お父さんに 、あんな不良とつきあっちゃいけないといわれて……。

　私、私……。先生、ここにいる先生方にお願いがあります。
　私は、私たちは、ほんとうの友だちが欲しいのです。チクったり、チクられたりではない、ほんとうの友だちが欲しいのです。学校を、ほんとうの友だちが作れるところにしてください。お願いです……」


「中学生の反発」
　彼らは、中学校で、その前の学年の時、あるひとりの男の子を排除した、つまり「いじめ」たといいます。「なぜ、その子がイヤなの?」とか「なぜそんなにきらうの?」という問いにたいして、具体的な言葉はあまり出てきません。
　中学生たちの方は、だんだんふくれっ面になっていきました。そしてその中のひとりが、低い声でこう言いました。
「だって……俺たち、アイツをいじめてるってことで仲間なんだもの……」

　私はこの言葉を聞いて、ハッとしました。そうか、子どもたちは「いじめ」を、こんな風にとらえていたのか、というよりも、子どもたちにとって「いじめ」は、こんな意味を持っていたのか……。
「あいつをいじめてるってことで仲間」、この言葉に出会って初めて、岡山のA子さんの言った「ほんとうの友だちが欲しい」と「いじめ」のつながりがわかったように思いました。



「友だち」を知らない子どもたち
子どもたちはよく「友だち」「仲間」という言葉を使います。しかしその確認を、こんな形で、つまり、共通の排除の対象を持ち、それを共に「きらい」と思うことで、自分たちの友人確認をしていたのではないでしょうか。

　ほんとうの仲間も友だちも、それを作る過程でさまざまな苦しさや楽しさがなければ作れません。子どもたちは今、そういう時間も場所もないまま、いきなり学校という��競争社会�≠ﾉ放り込まれているのではないでしょうか。友だち関係のあり方を知らされぬまま、誰かを共通に「いじめ」る、その共通性を仲間、友人だと思い込んでいるような気がします。

　だとすれば、どんなちいさな集団にも、「いじめ」の対象が必要ということになります。登校するときの小さなグループにも、学校のクラスはもちろん、その中の班の中にも、そしてクラブ活動のグループにも、そのグループを確認するためには、誰かひとり、みんなで「きらい」と思っていく存在が必要ということになります。

　今こうして書いてみると、そんなことは初めからわかっていたことなのに、という気がします。しかし私は、長い時間、それがわからずに苦しみました。「いじめ」現象の、出てくる様子の残酷さに驚き、子どもの��質�≠ｪ変わったのではないかと思った時もありました。

　変わったのは、子ども社会の��質�≠ﾅす。というよりも、学校に入るまで、子どもだけの社会が無くなってしまったということです。けんかをする場も、ゆっくりと人と人の関係を身につける遊びの時間も、今、子どもたちのまわりには全くといっていいほど無くなっています。そして恐ろしいのは、そういう個々バラバラの子どもたちが初めて出会う社会である学校が、成績で区別される競争の場になっているという現実です。


( この本は絶版のため、興味のある方は図書館でさがしてみてください )
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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